「面倒くさい」に素直になる。
第52回ファイナリスト・アイリックコーポレーション
あなたの代わりに
注釈を読みまくっています。
この課題は「保険クリニック(保険のコンサルティング)」をしている会社のキャッチフレーズでしたが、
このコピーがうまく引っかかったのは、「面倒くさいあるある」とサービスの売りがマッチしていると強く感じたからだと思います。特に保険の場合、チェックすべき膨大な内容とよくわからない言葉(覚えるべきもの)の掛け算で、注釈が多くなっている印象があるので、そこをサポートしていますというのがとても強い。
また、保険というサービスのコピーだと真面目というか固いトーンで書いてしまうことが多いと思うんですが、「読みまくっています。」と書いたことが一層ギャップになって刺さったと思うのでさすがだなと。
「注釈」というワードによって実際の店頭での絵までイメージできる感じがするので、日頃保険に限らず生活の導線上で感じる「リアルな面倒くさい」を覚えておくことが重要だと、改めて再認識した。
言葉の地域性。
(賞を狙う上で本質的ではないと思いますが、個人的に驚いたので書かせてください)
第53回二次審査通過作品・関西大学
アホだけど、バカじゃない。
アホが多い。バカは少ない。
カシコいアホしかいません。
この課題で二次審査を通過したキャッチフレーズが12本あった中で、「アホ」の単語を使ったものが3本ありました。また、「バカ」と対比したのが2本。
この課題がとても珍しく特殊だと思った記憶があります。自分も「関西と言ったらお笑い?→バカ、アホという単語もポジティブに使えるかも」と考えましたが、個人的に「バカ」の方が好意的に使えそうだと思い、そちらを強調させて通過作品とは逆のことをしてしまっていました。
今更気になって調べてみたところ、「関西ではアホ、関東ではバカの方が好意的に使われる場合がある(関西でバカは好意的に聞こえない)」というようなことを初めて知り、素直に驚きました。単純に自分が知らな過ぎただけなんですが、地域のものをアピールする際にはそういうニュアンスも気にする必要があるんだと学習。
(ただ、この課題が関西以外の地域での知名度を上げたいということも書かれていて、例えば関東で見る人のことを考えたら、選ばれた対比の言葉に違和感をあったりしないのか?なども気になったり。)
その先の3次審査を通ったり、協賛企業賞に選ばれたものを見ると、きわどいニュアンスではなく分かりやすい言葉で書かれたものだったので、上にいくにはやはり受け手に左右されにくい言葉を選ばなければならない、とも思いました。
前後を入れ替えて成り立つか、印象が変わるかチェックする。
その差を才能と呼んでいた。
今までは。
商品の求めているトーンにも合っているんだろうし、強い読後感を感じていいなと思った。ふと、前後を入れ替えてもなりたつだろうなと思い、
「今までは、その差を才能と呼んでいた。」
と繋げて書いてみたが、どうもインパクトが足りない印象。
前後入れ替えた方でも、言葉としては正しいはずだし、実際考えて思いつくのはそっちの方が先な気もするので、より言葉が強くなるようにチェックして入れ替えたのではないかとも思う。句読点のコントロールも上手い。
思いついた言葉や視点が方向性として絶対に合ってると思っても、どこか刺さらないと感じたら調整を怠らない。よく言われることだけど、時間がない時こそ難しいはずだから、常に忘れないようにしたい。
否定をうまく重ねて、挑発的な強いコピーに。
第52回ファイナリスト・FIXER「クラウドにしなきゃ!と思えるコピー」
クラウドにしない会社は、
クラウドにしない理由を
言えない会社だ。
これは「なるほどな」と深い腹落ち感があったコピー。勧める上で「ない」を重ねて書くことは、ともすれば読後感がネガティブになりやすそうで難しいと思うが、肯定的な挑発に聞こえるようとてもうまくまとめられている。
「クラウド」という扱っているものの性質と、ターゲットの内側を真っ直ぐ射抜いている気がする。世の中で着々と開拓されている「先端的」な類のサービスであり、それを導入できていないところの多くの理由は、全容が「わからない」から、ということが本当に多いのではないか。わからないから手が出せない、は大抵のことに当てはまるとも思うが、その普遍的な説得力がサービスの立ち位置と相まったからこその深い腹落ち感、というか。
課題自体が、自社サービスの直接の訴求じゃなくていいことも大元にあるが、「今」の捉え方として大いに勉強になる。
「広がりを感じる視点」と「読後感」を忘れない。
世界にはまだ、
しょうゆをかけるとおいしくなるものが、
いっぱいあると思う。
第52回のファイナリスト以上に選ばれたコピーで、一番好きなコピーがこちらだった。
企業広告という課題で、みんなができるだけ大きい視点で書いた(だろう)が、ここまで「広がり」と「読後感」を感じさせるコピーは当然書けなくて、見た瞬間「あ〜!」と納得してしまった。会社としての規模感や、世界への展開までイメージできた。
翌年53回の同社の課題が「和食の魅力をあらためて広めるコピー」というこちらも大きい視点の課題で、ファイナリストは課題が違いながらも「しょうゆ」を題材に入れて書かれていたが、個人的には52回ゴールドの方が納得して読めて、ゴールドに選ばれるだけの感触はこういうものかとも感じた。
個人的に今年は「正しさ・機能的」なコピーを書けるようになりたいと考えているが、元々は情緒的なものに惹かれる性質が強くあり、一つの指針としてこのコピーを忘れずに覚えておきたいと感じ書かせていただきました。
しっかり調べれば「ユニーク」なポイントは見つかる
第53回宣伝会議賞・協賛企業賞(阪急不動産)
タカラジェンヌと、
同じ父を持つマンション。
一番「へぇ〜!」感(トリビア感、驚き感)があったコピーかもしれない。
自分自身去年取り組んだ際、切り口を見つけるのに困った難しい課題の1つだったと記憶しています。
そんな課題にて、阪急グループの幅広い事業と歴史を調べ、首都圏の人でも知っていて且つブランド全体のイメージを綺麗に感じられる絶妙なワードを発見して組み合わせられたコピーだと感じ、企業の方に選ばれるのも必然だと思いました。
規模が大きくまとめることが難しいような課題こそ、頭を切り替えて深く調べる。
自分も「発見」を目指して頑張ろうと強く思えた作品です。
「ない」 で曖昧さ回避。
宣伝会議賞では毎年50万本近いコピーが応募される。
審査員は各担当の企業の課題に寄せられたおよそ1万本近いコピーをおそらくエクセルで見ている。同じような切り口、視点のコピーが無数に並ぶわけです。
まず宣伝会議賞に限らずコピーの意味を読み手が理解できないということは避けなければいけない。いわゆるコピーで伝えたいことが明確であること。
明確に伝えるためにはメッセージの「白」か「黒」をはっきりさせる必要がある。
「YES」なのか「NO」なのか、「ある」のか「ない」のか、曖昧さを回避する必要があるということ。
・揺れるだけなら、人は死なない。
・わしは家で死にたいが、
家で怪我はしたくない。
・お母さんの顔なんて、
二泊三日見たくない。
・少年のような目をしたひとの
クルマには乗りたくない。
・上を向いた企業にしか、クラウドは見えない。
・人生で一番シェアするものは、
しょう油かも知れない。
第53回宣伝会議賞ファイナリスト30作品のうちの6本、
1/5の確率で語尾が「ない」で終わる作品が選出された。
「~かもしれない」の「ない」は若干の意味合いが変わるものの、
言いたいことに決定的に「ある」「なし」が定まっているものは読み手の呑み込みが良い。(私も昨年度2次通過が3本でしたがうち2本のコピーには「ない」という言葉が入っていた。)
「ある」のか「ない」のか、という言葉は最も文章の意味を明確にする2文字なのかもしれない。上位に残るコピーは押しなべて共感を生むものが多いけれど、そういう意味では日常人々がいかに「あり」より「なし」の否定的感覚を持って生活しているかもよくわかる。今一度「どうつたえるか」というフェーズで「ごく自然なもの」を「ない」と否定してみた言い方も繰り返し考えるべきなのだと思った。